企業におけるIT統制を語る上で、避けては通れないキーワードにCOBITがあります。
COBITはControl Objectives for Information and related Technologyの略称で、ISACA(情報システムコントロール協会)と、それが設立したITGI(ITガバナンス協会)という組織により、情報技術管理を目的として作成された、組織におけるIT統制の為のフレームワークです。
企業などの組織においてITを導入する際、作って終わりというわけにはいかず、そのシステムがビジネス目標に沿っているか、きちんと管理されているか、リスクはどうか、などを適切に評価し、価値を最大化するように持っていかなければなりません。COBITはそのためのビジネス・フレームワークとして、広く知られています。
COBITは、それに従えばIT統制はOKというものではありません。COBITは何かを決定したり指図したりするものではないので、あくまで事業体がプラクティスを参照しつつも自分たちで決定・行動することが求められていることには留意する必要があります。
COBITは20年以上にわたり、改版が重ねられてきました。ここではCOBITというフレームワークの変遷と、最新版のCOBIT2019の役割について簡単にまとめてみたいと思います。
COBITの変遷
先に記述したように、COBITはISACAおよびITGIにより開発されたIT統制管理のフレームワークです。
最初のCOBIT1がリリースされたのは1996年。そのときのスコープは、監査のみを対象としたものでした。その後、以下の様に数年に1度改版を重ね、スコープを徐々に拡大してきました。(カッコ内は対象領域)
- 1996年 COBIT1 (監査)
- 1998年 COBIT2 (コントロール)
- 2000年 COBIT3 (マネジメント)
- 2005年 COBIT4.0 (ITガバナンス)
- 2007年 COBIT4.1 (同)
- 2012年 COBIT5 (事業体のITガバナンス)
20年以上の歴史の中で、時代の流れに合わせて見直しを繰り返しながら、事業体としての視点で広くカバーしようとしていることがわかります。
現在では最新のCOBIT2019が発表されています。
最新版 COBIT2019の役割
COBIT2019が登場した背景は幾つかあります。順に見ていきましょう。
- 「IT」から「I&T」へ
- 変化する環境に整合させる
- COBIT5の限界
ITからI&Tへ
「IT」という言葉は技術的なものを連想させます。その為、そこに関わるガバナンスは技術力のある特定の部門に限定される、という見方がありました。
ITガバナンスは特定部門の担当領域であるという偏った見方ではなく、事業体全体に関わるものであると改めて定義するという背景から、「ITガバナンス」から「I&Tガバナンス」へと言葉が変更されています。
変化する環境に整合させる
COBIT5のリリースから7年が経過し、その過程で登場した新しい技術や、デジタル化などのビジネストレンドを考慮に入れる必要がありました。
また、他のフレームワークもこの7年の間に変化を遂げており、COBITとしてもそれらと整合させる必要が生じてきた、という事情もある様です。
COBIT5の限界
COBITのプロセスは成熟していると言われてはいたものの、その適用は複雑で骨が折れるものであると認識されていました。このようなCOBIT5の限界が認識されていたことも、COBIT2019が登場する一因となった様です。
COBITと他のフレームワークとの関係
ITマネジメントやITガバナンスに関しては、COBIT以外のフレームワークもあります。ここではVal ITとITILとの関連について簡単に触れます。
Val IT
Val ITはCOBITと同じくITGIにより、2006年に策定されました。COBITと同じくITガバナンスのフレームワークであり、COBITをビジネスや財務的な観点から補完するものという位置づけです。
COBITがITガバナンスの方法や運用についてカバーしているのに対し、Val ITは投資の決定の是非や利益が得られているかに重点を置いています。
Val ITはCOBIT4のサポートを受け、COBIT5はVal ITを組み込むなど、COBITとVal ITは相互に補い合う関係にあります。
ITIL
ITサービスマネジメントにフォーカスしたフレームワークとして、有名なものにITILがあります。ITILの初版は1989年公表され、現在の版はITIL2011となっています。
ITILは英国商務省によって公表されたもので、COBITとの直接的な関連はありませんが、ITサービスマネジメントの重要性から、広く普及しています。COBITのIT運用に関わるプロセスは、ITILでカバーされています。